高齢者糖尿病と低栄養・フレイル・サルコペニア
高齢者が要介護状態になる原因として、「認知症」や「転倒」と並んで「高齢による衰弱=フレイル(frail)」が重要であり、
さらに加齢に伴う「筋力の減少+筋肉量の減少=サルコペニア」が、フレイルの構成因子、転倒のリスク因子として重要と言われ、
これらフレイル·サルコペニアに陥る原因の一つとして「低栄養」が注目されています。
高齢者の糖尿病治療においては、ただ単に血糖値を下げればいいというわけではなく、
フレイルに陥らないように低血糖や低栄養に配慮した合併症予防·全身管理を行うこと、
さらに進んでフレイルに対する治療·介入を行っていくことで、健康寿命を延伸していくことが真の目標です。
中高年では肥満、高血圧、高脂血症といったメタボリック症候群への介入が心血管合併症の予防の観点から重要となりますが、
高齢者においては低体重、低血圧、低栄養というメタボリック症状群とは逆の「リバースメタボリズム」という病態が
フレイルの関連因子として非常に重要となります。
高齢者の糖尿病の病態や社会的状況は個人差が大きく、フレイルの原因も多岐に渡るため、
患者さんそれぞれに合った多方面からのアプローチを行うことが重要です。
その中でも糖尿病の管理をしながら、低栄養にならないためにどの程度の量を食べないといけないのか?はとても大事な問題です。
体を動かすために必要なエネルギーの量は、性別、年齢、活動量、体の状態(病気の有無や手術の後など)によって異なります。
この日々の必要エネルギーが摂取できない状態が長期化することで低栄養に陥ります。
また食品成分の中でも特に重要なのが筋肉の合成のために必要なたんぱく質で、このたんぱく質摂取量が足りない状況が続くことで
筋肉量の低下·筋力の低下=サルコペニアに陥っていくため注意が必要です。
●低栄養の有無をチェックしましょう
低栄養に陥っているかどうかの簡便な目安として、身長と体重から計算して算出するBMIがあります。
【BMIから見た理想体重】
身長(㎝) | BMI18.5の体重(kg) 【普通体重下限】 |
BMI22の体重(kg) 【標準体重】 |
140 | 36.3 | 43.1 |
145 | 38.9 | 46.3 |
150 | 41.6 | 49.5 |
155 | 44.4 | 52.9 |
160 | 47.4 | 56.3 |
165 | 50.4 | 59.9 |
170 | 53.5 | 63.6 |
また次のような症状がある場合も注意が必要です。
【食事に関すること】
·食欲が落ちている
·朝食を抜かしがち、などで食べる回数が減ってきた
·1回の食事で食べる量が減ってきた
·食事を残すことが多くなった
·肉、魚、卵など(たんぱく質)をあまり食べていない
【外見·自覚症状に関わること】
·顔つきが変わった(頬がこけた、顔色が悪い、目が落ちくぼんでいる、など)
·風邪をひきやすくなった
·傷や床ずれが治りにくくなった
·しばしば「疲れる」というようになった
·握力が弱くなった
·歩幅が狭くなってきた
·歩く速度が遅くなってきた
·転びやすくなった
●低栄養への対処法
1. バランスの良い食事
たんぱく質·脂質·炭水化物·ビタミン·ミネラルの五大栄養素がバランスよく含まれた食事が理想的です。
2. 食事の回数を増やす
1回の食事量を増やすことが難しい場合、食事の回数を増やすとよいです。
「1日3食」に必ずしもこだわる必要はなく、1食分を2回に分けたり、食事に間食を加えたりすることで、
1日での栄養の摂取量を増やすことができます。
3. 食べやすい形態にする
噛む力や飲み込む力が弱くなると、肉やごぼう、貝類など硬くてかみ切りにくいものなどは食べにくく、
食が進まない原因となることがあります。
義歯の調整や口腔内の状態の確認のため歯科受診をすることや、食べにくいものは、やわらかく調理をする、
とろみをつけるなどの工夫をすることも大切です。
4. おかずから食べる
ごはんや麺などの主食は満腹になりやすいため、おかずから食べることを心がけてみましょう。
おかずから食べることで、体に必要なたんぱく質をとりやすくもなります。
5.環境を変える
食欲自体がないときには、家族や友人など誰かと一緒に食べる機会を増やしたり、食器など食卓の雰囲気を変えたりして、
食事が楽しいものになると、食欲が変わることがあります。
6.活動量を増やす
ウォーキングやストレッチなど軽い運動を取り入れて活動量を増やすことも食欲アップには効果的です。
但し、栄養摂取量が不良状態のままの運動は消耗するだけとなるのでしてはいけません。
低栄養によるサルコペニア·フレイルに対しては、栄養摂取(たんぱく質、アミノ酸)と
レジスタンス運動(いわゆる「筋トレ」)との併用が効果的です。
しかし、どれほどの量が必要不可欠であるかなどは、特に腎臓の機能が低下した方などタンパク制限が必要である場合があるため、
医師に相談して頂くことが必要です。
7.薬を見直す
糖尿病治療のためのお薬の中には食欲を落とすものや、便通に影響があるもの、体重減少効果のあるものなどがあるため、
低栄養が主問題となる場合は見直したほうがよい場合があります。
低栄養と糖尿病治療薬について気になられる場合はお気軽にご相談ください。